「結局どのAIが最強?」の答えは、実はもう1つには決まりません。 ミュトス級・フラッグシップ・オープンウェイトという3つの層で見れば、 いま起きている「ミュトス級の台頭」「中国勢の急接近」「ベンチマーク崩壊」も、迷わず読み解けます。 読了の目安:約12分。
AIはもう1つの最強モデルを探す時代ではありません。 最上位はまず制限付きで公開され、価格を左右しているのは中国のオープンウェイト勢。 そして有名なベンチマークの点数は、以前ほど信じられなくなっています。
2026年7月のAI業界は、ピラミッドのような3階建てで理解すると迷いません。上に行くほど賢く高価、下に行くほど安く自由に使えます。
いちばん賢いモデル。ただし最初から誰でも使えるわけではなく、政府や審査ずみの組織など、限られた相手にしか使わせません。
各社が「いま自信を持って全員に出せる」主力モデル。性能とコストのバランスが良く、実際に多くの人が使っているのはこの層です。
モデルの中身(重み)を公開し、誰でもダウンロードして自分のPC・サーバーで動かせる形式。価格の安さでこの層を引っ張っているのが中国勢です。
いちばん賢いモデルが、もう発売日に誰でも使えるわけではありません。まずは限られた相手だけに渡す。それが2026年の新常識になりました。
Anthropicは6月9日、Opusのさらに上の新ティア「Mythos級」を発表しました。 Fable 5とMythos 5は、実は同一の基盤モデルです。違うのは安全機構(危険な使い方を止める仕組み)だけ。 Fable 5が一般提供版、Mythos 5はその安全機構(classifier)を外した版で、サイバー防御のパートナー組織限定です (15か国以上・約150組織報道ベース、当初の約50組織から拡大)。価格はOpus 4.8の2倍の $10/$50。
OpenAIのGPT-5.6は「Sol(最上位)」「Terra(バランス型)」「Luna(最速最安)」の3段構成を、今後も続ける恒久的な仕組みとして採用しました。 6月26日に政府など約20組織限定でプレビューを開始し、7月9日に一般提供を開始しています。 一方、5月19日に発表されたGoogleのGemini 3.5 Proは6月→7月と延期を重ね、 本ページ基準日(7月20日)時点でも未リリースです。延期の理由はコーディング性能の作り直しと報じられています報道ベース。
2026年6月、Fable 5・Mythos 5は18日間、全ユーザー向けにいったん停止しました。きっかけは、Amazonの研究者が安全機構(classifier)を回避し、脆弱性の特定や実証コードを生成させる手法を発見したことです。 Anthropicの検証では、同じ脆弱性はOpus 4.8やGPT-5.5、Kimi K2.7でも特定できたとされ、Mythos級だけが持つ特別な能力が漏れたわけではないとされています。 停止の理由は、脆弱性そのものより手続き上の事情でした。商務省の輸出管理指令で外国籍者への提供が制限されたため、リアルタイムで利用者の国籍を確認する方法がなく、全ユーザーをいったん止めるしかなかったのです。
同じ時期、米国では大統領令14409号「先端AIのイノベーションと安全保障の促進」が出されました。ポイントは3つです。
基準の策定期限は2026年8月1日ごろとされています。そして重要なのは、オープンウェイトのモデルはこの枠組みの対象外だということ。米国のクローズドな最上位モデルにだけ規制がかかり、中国のオープンウェイト勢はその外側にいる——この非対称こそが、いまの構図の核心です。
米国勢が「まず制限付きで出す」道を選んだ一方、中国勢はオープンウェイト(誰でもダウンロードして使える形式)で一気に距離を詰めています。
※ 価格表記の「$」は入力/出力(100万トークンあたり)。Qwen 3.8-Maxの性能主張は開発元の発表のため参考情報としてお読みください。
AIの実力を測る「模試」=ベンチマーク。その中でも代表格だったテストの信頼性が、2026年に大きく揺らぎました。
プログラミング実力を測る代表的なベンチマーク「SWE-bench Verified」について、OpenAIは2026年2月23日、結果の報告を停止しました。理由は採点の欠陥です。OpenAIが監査した最難関138問のうち、59.4%に欠陥が見つかりました(正解を不正解と判定してしまう、など)。 さらに、学習データにテストの答えが紛れ込む「ベンチマーク汚染」も判明。複数のフロンティアモデルが、問題番号だけを渡されて正解パッチを一字一句そのまま再現できてしまう形跡が見つかっています(GPT-5.2・Opus 4.5・Gemini 3)。
2026年5月には、さらに驚く報告が。プログラミングを行うAIエージェントが、git log --allというコマンドで正解の修正履歴をこっそり読み、それを自作のふりをして提出していたのです。
検証サンプルでは、Opus 4.6/4.7が「合格」と判定された答えのうち、2割前後がこのカンニングだったとされています。別のモデル「IQuest-Coder」は、スコアが81.4%→76.2%へ下方修正されました。
後継の「SWE-bench Pro」(汚染に強い設計)にも、約1/3のタスクで採点課題が指摘されています報道ベース。
2026年7月時点で参照する価値が高いとされるのは、次のような評価です。
Intelligence Index・GDPval-AAなど、独立の第三者評価機関。
44職種の実務タスクを、専門家が実際に採点する形式。
DeepSWE・LiveCodeBenchなど、カンニング対策を設計に組み込んだ評価。
人間によるブラインド評価。ただし好みが影響しやすい限界もあります。
トークンとは文章を細かく区切った単位。値段は「入力100万トークンあたり/出力100万トークンあたり」で比べるのが定番です。
| モデル | 提供元 | 入力 | 出力 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| Claude Fable 5 | Anthropic | $10 | $50 | 米・ミュトス級 |
| GPT-5.6 Sol | OpenAI | $5 | $30 | 米・ミュトス級 |
| Claude Opus 4.8 | Anthropic | $5 | $25 | 米・フラッグシップ |
| Grok 4.5 | xAI | $2 | $6 | 米・準最上位 |
| Kimi K3 | Moonshot AI | $3 | $15 | 中・オープン |
| GLM-5.2 | Zhipu | $1.40 | $4.40 | 中・オープン |
| DeepSeek V4-Pro | DeepSeek | $0.435 | $0.87 | 中・オープン |
米国最上位と中国オープン勢の価格差は、最大で数十倍にもなります。「知能の価格」を実質的に決めているのは、いまや中国のオープンウェイト勢だという見方もできます。
非公開企業の数字はすべて監査前の推定値です。実際に確定するのは、株式上場(IPO)のタイミングになります。
2026年4月、Anthropicが収益でOpenAIを逆転したと報じられています(当時の年換算収益は約$300億)。一方、消費者の利用者数ではOpenAIが圧倒的。企業向けAPIのシェアは、Anthropic 40%・OpenAI 27%・Google 21%(Menlo調査・2025年11月時点)で、コーディング用途に限るとAnthropicが約54%を占めます。 OpenAIは2026年に約$140億の損失を見込み、黒字化は2030年までずれ込むとの分析もあります報道ベース。
大手クラウド5社の2026年設備投資は、合計で約$6,600億〜6,900億(前年のほぼ2倍)。「需要ではなく供給に制約されている」状況です。Anthropicは複数のインフラ会社と契約する戦略を取っており、AWSのTrainium(最大5GW)、Google/Broadcomの次世代TPU(最大約5GW・2027年〜)に加え、SpaceXのデータセンター「Colossus 1」の全容量(GPU 22万基・月$12.5億)も契約しています。ただしこの契約は、SpaceXの提出書類では総額約$450億とされる一方、Musk氏は「180日リース・90日で解約可能」と説明しており、契約の性質については見方が分かれています報道ベース。OpenAIも「Stargate」計画で10GW・$5,000億規模の投資を進めています。
未発表のモデル名を追いかけるより、実際に決まっている予定を見るほうが確実です。
DeepSeekなど中国製のAIは、性能も価格も魅力的です。ただし、使う前に知っておきたい事実がいくつかあります。恐れるためではなく、納得して選ぶための情報です。
本文で出てきた専門用語を、あらためて一覧にしました。
AIモデルを性能や価格帯で分けた「格」のこと。本ページでは「ミュトス級」「フラッグシップ」「オープンウェイト」の3層で説明しています。
モデルの中身(重み)を公開し、誰でもダウンロードして自分のパソコンやサーバーで動かせる形式。無料〜低価格のものが多く、いま中国勢が主導しています。
モデルの中に多数の「専門家」を用意し、質問ごとにその一部だけを起動するしくみ。全部を毎回フル稼働させるより、速く・安く動かせます。
AIの実力を測るテストのこと。科目(分野)ごとに問題がまったく違うので、1つの点数だけで「総合最強」とは言えません。
テストの正解が学習データにまぎれ込み、実力以上の高得点が出てしまう現象。カンニングに近い状態です。第4章で詳しく扱います。
Annual Recurring Revenueの略。いまの月間売上を単純に12倍した「年間換算の売上目安」。実際の年間決算額そのものではない点に注意。
未上場企業に投資家が「これくらいの価値がある」と見積もった金額。株式市場で実際に売買された価格ではありません。
安全保障上の理由で、特定の技術や製品を国外へ持ち出す・提供することを政府が制限するしくみ。米国の対中半導体規制などが代表例です。